2030年まで、あと4年です。
ある医療団体で伺った話で、「電子カルテの話が役員間で最も盛り上がる」とのことでした。
話題になるのは、主に次の3点です。
- 入れないといけないのか
- いつ入れればよいのか
- どのタイプを選べばよいのか
どれも院長先生にとって切実な問題です。電子カルテは診療の中心に関わるうえ、導入や更新には大きな費用がかかります。
一方、国が掲げる「2030年までに電子カルテ普及率約100%」という目標と、すべての医療機関が今すぐ導入しなければならないという話は分けて考える必要があります。
この記事では、厚生労働省が2026年9月に公表した資料をもとに、医科と歯科の現状、導入時期、製品を比較するときの確認事項を整理します。
2030年までに何が変わるのか
厚生労働省の「電子カルテ普及計画(案)」には、2030年までに電子カルテ普及率約100%を目指すと書かれています。
ここでいう電子カルテは、院内で診療録を電子化するだけの仕組みではありません。必要な患者さまの医療情報を、全国的に共有できる状態まで含めた計画です。
法律上の達成義務を負う主語は政府
地域医療介護総合確保法第12条の3第4項には、政府が2030年12月31日までに、電子カルテの普及率約100%を達成するよう医療機関の業務の電子化を実現しなければならないと定められています。
今回確認した厚生労働省資料では、個々の医療機関へ一律に導入を義務づける罰則までは示されていません。
そのため、「2030年までに入れなければ、直ちに罰則を受ける」と読むのは適切ではありません。
ただし、今後の制度、診療報酬、補助の条件が変わる可能性はあります。この記事だけで法的な判断をせず、厚生労働省、地方厚生局、所属する医療団体などから出る最新情報を確認してください。
目標と支援策は分けて読む
2030年の普及目標は法律にも書かれていますが、具体的な普及策には未確定の内容が残っています。
2027年度以降の導入支援は、2026年9月時点では令和9年度概算要求に盛り込まれた段階です。予算編成や国会審議によって、金額、対象、開始時期、条件が変わる可能性があります。
「国が補助する予定だから、この金額で導入できる」と先に資金計画を決めるのは避けた方がよいでしょう。
確定している目標と、これから決まる支援策を分けて読む必要があります。
現場で話が盛り上がるのは3つの疑問が残るから
電子カルテの議論が盛り上がるのは、現場が変化を嫌っているからではありません。
患者さまの診療情報を扱い、毎日の診療を止めずに移行し、高額な費用を負担する必要があるからです。
入れないといけないのか
国の方針は、クラウドを前提とした電子カルテと全国的な医療情報共有を広げる方向です。
一方、医科診療所には、紙カルテを使い続けながら国の医療DXサービスへ対応する「標準型電子カルテ・導入版」も計画されています。
すべての診療所が同じ方法で、同じ時期に全面的な電子カルテへ移る想定ではありません。
いつ入れればよいのか
厚生労働省の計画では、電子カルテを導入済みの医療機関は、現在のシステムを更新する時期に移行する流れが示されています。
更新が当分先の場合は、電子カルテ情報共有サービスなどへ接続するための個別改修も選択肢とされています。
「2030年が近いからすぐ契約する」より、現在の契約期間、更改時期、データ移行、院内研修に必要な期間を先に確認する方が現実的です。
どのタイプを選べばよいのか
計画案には、認証されたクラウドネイティブ型、国の医療DXサービスに対応するパッケージ版、医科診療所向けの導入版など、複数の道筋が示されています。
ただし、認証制度や認証製品の一覧は、これから具体化する段階です。
現時点で製品名だけを比較しても、支援の対象になるか、自院に必要な機能を満たすかは確定できません。
医科は現在のカルテと更改時期から考える
医科診療所では、電子カルテの導入状況によって確認する内容が変わります。
社会保険診療報酬支払基金が2026年6月に行ったアンケートでは、回答した医科診療所7万1,616施設のうち、72.6%が電子カルテを導入済みでした。
導入状況を回答しなかった施設も未導入として計算すると、導入割合は68.8%です。調査の集計方法によって数字が変わるため、自院の周囲の印象だけで全体像を判断しない方がよいでしょう。
紙カルテを続けたい医科診療所
医科無床診療所向けには、紙カルテとの併用を前提とした「標準型電子カルテ・導入版」が開発されています。
診療録は紙へ記載しながら、診療情報提供書や検査データの閲覧・登録、電子処方箋への対応などを担う仕組みです。2026年度中の完成が目標とされています。
全面的な電子カルテへの移行だけが選択肢ではない点は、紙カルテを使う診療所にとって大きな確認事項です。
ただし、完成後の機能、費用、補助の条件、対応する地域事業者は今後の情報を待つ必要があります。
未導入または更改が近い医療機関
電子カルテを新しく導入したい診療所や中小病院には、標準仕様に準拠した認証クラウド型の普及が計画されています。
すでにオンプレミス型を使い、更改時期が近い場合も、認証クラウド型や国の医療DXサービスに対応したパッケージ版への移行が想定されています。
選択肢を絞る前に、現在の電子カルテ事業者へ次回の更改時期、共有サービスへの対応予定、移行できるデータの範囲を確認します。
歯科はレセコンからの移行と費用が大きな論点になる
歯科では、医科と同じ導入率や移行方法を当てはめられません。
厚生労働省委託事業が2026年7月から8月に行った調査では、歯科診療所4,209施設のうち、電子カルテを利用していたのは12%でした。
一方、カルテ作成支援機能を備えたレセコンは51%、同機能のあるレセコンと紙カルテの併用は28%です。合わせて79%が、レセコンのカルテ作成支援機能を利用しています。
電子カルテだけを見ても歯科の現在地は分からない
歯科では、レセプトコンピューターが診療録の作成を支えているケースが多くあります。
そのため、電子カルテの導入率12%だけを見て、「歯科の電子化が進んでいない」と評価するのは適切ではありません。
現在のレセコンで何を記録し、どの機能を使い、紙とどう分担しているのか。まず現状を確認する必要があります。
費用への不安は調査にも表れている
同じ資料では、歯科で電子カルテを導入していない理由として、「導入や運用にかかる費用が高い」という回答が最も多く示されています。
導入の動機になり得る条件でも、月額利用料や保守費用が大きく増えないこと、既存の端末や周辺機器を利用できることが上位に挙がりました。
厚生労働省は、認証製品、オンプレミス型からのデータ移行、パッケージ版などへの支援を概算要求に盛り込んでいます。補助率2分の1以内などの案もありますが、上限や対象を含めて確定した制度ではありません。
歯科向けのクラウド型電子カルテを提供する事業者が限られていることも、厚生労働省資料に記載されています。選択を急ぐより、認証制度と対象製品が具体化した時点で比較し直す余地を残しておく必要があります。
電子カルテ情報共有サービスは準備できた医療機関から始まる
電子カルテ情報共有サービスは、2026年度冬頃をめどに、全国で利用可能な状態にすることが目標です。
ただし、冬からすべての医療機関が一斉に利用を義務づけられる、という説明ではありません。
厚生労働省資料では、運用開始用の技術解説書に対応し、利用準備ができた電子カルテを導入した医療機関から、順次利用できるとされています。
対応時期は、主に各医療機関の電子カルテ更新時期が想定されています。
接続できることと運用できることは別
電子カルテ情報共有サービスでは、診療情報提供書、健診結果報告書、傷病名、感染症、薬剤禁忌、アレルギー、検査などの情報を扱う計画です。
システムが対応していても、誰が登録内容を確認するのか、誤りに気づいたときどう対応するのか、患者さまへどう説明するのかは院内で決める必要があります。
厚生労働省も、現場の運用変更や情報登録・閲覧時の注意点をまとめた医療従事者向け指針を準備しています。
製品の接続可否だけでなく、日常の診療で無理なく運用できるかまで確認する必要があります。
製品を決める前に自院の条件を一枚にまとめる
正直に言うと、私は電子カルテの選定・導入へ直接関わった経験はありません。
そのため、特定の製品を勧めたり、「この時期に導入すればよい」と断定したりはしません。
厚生労働省の資料から分かるのは、国が目指す方向と、今後比較するときの共通条件です。
院長先生が事業者へ相談する前に、次の内容を一枚へまとめておくと、自院に必要な提案かを確認しやすくなります。
| 確認する項目 | 自院で記録する内容 |
|---|---|
| 現在の仕組み | 紙カルテ、レセコン、電子カルテ、周辺システム |
| 契約と更改 | 契約終了日、次回更新、解約条件、保守期限 |
| 必要な連携 | 電子処方箋、電子カルテ情報共有サービス、検査、画像、予約など |
| データ移行 | 移行できる情報、移行できない情報、費用、作業期間 |
| 費用 | 初期費用、月額、保守、端末、回線、研修、オプション |
| 診療への影響 | 移行期間、休診の要否、障害・停電時の対応 |
| 院内体制 | 責任者、操作するスタッフ、研修時間、問い合わせ先 |
厚生労働省が想定する標準仕様には、政府の医療DXサービスへの対応だけでなく、セキュリティ、国内でのデータ保管、バックアップ、価格公開なども含まれます。
ベンダーの説明を聞くときは、機能の多さだけでなく、必要な費用が公開されているか、移行後もデータを扱えるか、障害時の診療をどう続けるかまで確認してください。
医療DXを経営側の判断として整理する考え方は、クリニックの医療DXが進まない背景を整理した記事でも紹介しています。
今決めるのは製品名ではなく確認の順番
2030年という期限を見ると、急いで製品を決めた方がよいように感じるかもしれません。
しかし、2026年9月時点では、認証制度、認証製品、補助の詳しい条件など、これから決まる内容が残っています。
今できるのは、製品名を決めることだけではありません。
- 現在のカルテと周辺システムを書き出す
- 契約期間と更改時期を確認する
- 現在の事業者へ対応予定を聞く
- 移行したい情報と残したい業務を整理する
- 確定していない制度を確認する時期を予定表へ入れる
電子カルテの導入や更新は、院長先生だけで判断しない方がよい領域です。
電子カルテやレセコンの事業者、所属する医療団体、医療情報セキュリティの専門家などへ確認してください。補助制度は制度の窓口へ、資金や税務に関する判断は税理士などの専門家へ相談します。
現在の業務と責任者を整理する方法は、小規模クリニックが医療DXの最初の3か月で目指すことも参考になります。
RYOZENPROは、電子カルテそのものの選定や導入を代行する立場ではありません。
Web、生成AI、動画、院内文書などの支援においても、製品を先に決めるのではなく、現場で何に困っているのか、誰にどのような影響があるのかを整理することを大事にしています。
2030年まで、あと4年です。
だからこそ、今すぐ契約するかどうかだけを考えるのではなく、自院がいつ、何を確認し、誰と判断するのかを決めておく。その準備が、費用や診療への影響を落ち着いて比較することにつながります。
医療DXに関する院内の困りごとを整理したい場合は、mediの無料相談または medi@ryozenpro.com へご相談ください。
お問い合わせフォームやメールには、患者さまを特定できる氏名、生年月日、症状、診療情報などを記載しないようお願いします。

