2026年9月4日、ある医療団体の事務局長と医療DXについて話す機会がありました。
厚生労働省から医療DXの推進を求められているものの、現場ではなかなか進まない。背景にあるのは「リテラシーの壁」だという話でした。
ただし、これは医療従事者の勉強不足という意味ではありません。
医療DXをITの問題として現場へ渡すのではなく、目的、責任、予算、人材を決める経営課題として扱えるかどうか。私は、そこに支援を必要とする大きな潜在ニーズがあると感じました。
この記事では、国が進める医療DXと現場の間にある差を整理し、院長先生が経営者として何を決める必要があるのかを考えます。
国の医療DX推進と、現場の進み方には差がある
厚生労働省は、医療DXで実現を目指すものとして、医療機関の業務効率化などを挙げています。切れ目なく質の高い医療を効率的に提供することも、目標の一つです。
取り組みの柱は、全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DXの3つです。
国の工程表では、遅くとも2030年までに、必要な患者情報を共有するための電子カルテを概ねすべての医療機関へ導入する目標も掲げられています。
一方、厚生労働省が2026年3月に開いた検討会では、2023年時点の電子カルテ導入率も示されました。一般診療所で55.0%、200床未満の一般病院で59.0%です。
同じ検討会では、日本医師会による診療所への調査も紹介されています。電子カルテを導入しにくい理由として、「ITに不慣れ」「導入費用が高額」といった回答が示されました。
国が方向性や期限を示しても、それだけで各医療機関の準備が整うわけではありません。
既存の業務、費用、スタッフ教育、安全管理、導入後の運用まで、現場ごとに決めることが残るからです。
「リテラシーの壁」は、現場の勉強不足ではない
正直に言うと、「医療現場はリテラシーが低い」と片づける説明には賛成できません。
医療機関は患者情報や診療に関わるため、正確性、守秘義務、診療の継続に特に注意が必要です。現在の仕組みを簡単に変えられないのは、変化を嫌っているからとは限りません。
本記事では、リテラシーを「IT用語を知っていること」だけでなく、次の3つを組織として行える状態と捉えます。これは公的な定義ではなく、医療DXを経営課題として整理するための考え方です。
| 段階 | 組織に必要な状態 |
|---|---|
| 知る | 制度や技術の概要と、自院への影響を理解できる |
| 決める | 目的、優先順位、費用、責任者、扱う情報を判断できる |
| 続ける | スタッフが運用し、問題を記録し、必要な見直しができる |
詳しい人が一人いるだけでは、組織のリテラシーが整ったとはいえません。
反対に、院長先生がシステムの専門用語をすべて理解していなくても、判断に必要な情報を集め、専門家へ確認し、責任の所在を決められれば前へ進めます。
必要なのは、全員をITの専門家にすることではありません。経営と現場が同じ課題を見て、決められる状態をつくることです。
医療DXは、院長先生が扱う経営課題です
医療DXをシステム担当者だけの仕事にすると、経営上の目的が曖昧になりやすくなります。
たとえば、電子カルテや予約システムを入れ替える場合、機能の比較だけでは判断できません。
導入費用をどこまで負担するのか。
移行期間中の診療をどう継続するのか。
スタッフの研修時間をどう確保するのか。
障害が起きたとき誰が対応するのか。
経営側で決める事項が多くあります。
生成AIやWebを使った院内業務の改善でも同じです。
何のために使うのか。
誰の負担をどう変えたいのか。
どの情報を扱わないのか。
誰が出力や公開内容を確認するのか。
こうした判断は、ツールの設定だけでは決まりません。
院長先生自身がすべての作業を担当する必要はありません。
ただし、次の4点は経営側から手放さない方がよいと考えています。
- 解決したい経営課題
- 費用と人員の配分
- 安全性と責任の線引き
- 継続または中止を判断する基準
医療DXを経営課題として扱うとは、院長先生がシステム担当者になることではありません。技術を使って何を変え、何を守るかを決めることです。
複数の課題が重なっている場合は、院長の経営の悩みを整理する方法も参考にしてください。
現場任せ、業者任せ、研修任せでは止まりやすい
医療DXが止まる場面を考えるときは、誰か一人の能力ではなく、意思決定の仕組みを見ます。
詳しいスタッフ一人へ任せる
院内に詳しいスタッフがいることは大きな力です。しかし、通常業務を抱えた一人へ調査、比較、設定、教育まで集めると、判断と作業の負担が集中します。
また、予算や他部署との調整は、担当者だけでは決められません。
担当者には実務を任せ、経営側は目的、優先順位、予算、責任の判断を担う。役割を分ける必要があります。
システム会社へ判断まで任せる
事業者は、自社製品の機能や導入方法には詳しくても、クリニック経営のすべてを代わりに判断できるわけではありません。
提案された機能が自院に必要か、現在の業務と合うか、運用できるかを決めるのは医療機関です。
比較の前に、自院が解決したい課題と、変えてはいけない業務を言葉にしておくことが欠かせません。
研修を受ければ進むと考える
研修で知識を得ても、使う時間、院内ルール、確認者、相談先がなければ、日常業務には定着しません。
教育は必要です。ただし、教育だけに解決を求めるのではなく、学んだことを試し、問題を共有し、経営判断へ戻す流れまで設計します。
リテラシーの壁を越えるには、経営会議の議題に載せる
医療DXを進める最初の変化は、新しいツールを契約することではありません。
定期的な経営会議や院内会議で、DXに関する課題を継続して扱うことです。
会議では、少なくとも次の5つを確認します。
- 今回、どの経営課題を扱うのか
- 患者さまやスタッフの状態をどう変えたいのか
- 患者情報や診療情報を扱う可能性はあるか
- 誰が実務を担い、誰が最終判断するのか
- 費用と効果を、いつ何で見直すのか
内容は、1枚にまとめます。
「電子カルテを導入する」「AIを使う」といった手段から書き始めず、困っている状態、目的、関係する人、扱う情報、責任者、相談先、見直す日を記録します。
この1枚があれば、担当者と事業者が同じ前提で話しやすくなります。導入しないという判断をした場合も、理由を院内で共有できます。
実行段階で何から着手するか迷った場合は、小規模クリニックが医療DXの最初の3か月で目指すことで、業務と情報を整理する方法を紹介しています。
自院だけで判断しない方がよい領域もある
医療DXを経営課題として扱うことと、すべてを院内だけで決めることは同じではありません。
電子カルテ、レセプトコンピューター、オンライン資格確認など、医療情報システムに関わる事項は、既存の事業者や医療情報セキュリティの専門家と確認します。
厚生労働省は2026年6月に「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版」を公表しました。ガイドラインは、経営管理、企画管理、システム運用、保守委託機関の各編に分かれています。
安全管理をシステム担当者だけへ任せず、経営側の責任を含めて確認する必要があります。
法務、労務、税務、資金調達などの判断は、弁護士、社会保険労務士、税理士、金融機関など、必要な資格と専門性を持つ相談先へ確認します。
ホームページやSNSで患者さま向け情報を変更する場合は、医療広告規制への確認も必要です。文章が自然だから適法とは限りません。判断に迷う表現は、所管の自治体や保健所、医療広告に詳しい専門家などへ相談してください。
なお、国が進める医療DXと、RYOZENPROが支援するWeb、生成AI、動画、院内文書、業務整理は同じ範囲ではありません。
国の制度、診療、法務、セキュリティの専門判断をRYOZENPROが代わりに行うものではなく、必要な相談先と役割を分けながら、現場と経営の課題を整理します。
医療DXを進める第一歩は、経営の言葉で話すこと
2026年9月4日、ある医療団体の事務局長と、医療DXを進める上でリテラシーの壁があるという話をしました。私はこれを、個人の知識不足を指摘するものではないと受け止めています。
制度や技術を、自院の目的、責任、予算、人材へ翻訳する役割が必要だということです。
院長先生が技術のすべてを理解する必要はありません。一方で、次の判断は経営の仕事として残ります。
- 何を改善するのか
- 何を守るのか
- 誰が責任を持つのか
- 誰の力を借りるのか
- いつ見直すのか
私は、医療団体への生成AI伴走支援や、診療報酬に関するチャットボット開発、個人病院の支援に関わってきました。
そこで大事にしているのは、AIやシステムを売ることから始めず、現場に答えを探すことです。DXの話を経営の言葉に置き換え、院内で判断できる状態をつくることが、次の一歩につながると考えています。
医療DXを経営課題として整理したいものの、何を相談すればよいか分からない場合は、mediの無料相談または medi@ryozenpro.com へご相談ください。
お問い合わせフォームには、患者さまを特定できる氏名、生年月日、症状、診療情報などを入力しないようお願いします。

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