新人が入るたびに、同じ説明を一から繰り返していないでしょうか。
院内マニュアルを用意しても、スタッフが途中で止まることはあります。原因は、手順を知らないことだけではありません。パソコンの基本操作で止まる場合もあれば、責任者へ確認すべき場面が分からない場合もあります。
この記事では、医療スタッフ教育を「知識・操作・判断」に分け、院内マニュアルへ落とし込む方法を紹介します。対象は受付、事務、情報共有などの日常業務です。診断や治療、医療安全に直接関わる手順は、院内の責任者と専門職が法令や指針に沿って整備してください。
医療スタッフ教育の対象を3つに分ける
マニュアルを書き始める前に、スタッフがどこで止まっているかを確認します。すべてを「知識不足」と捉えると、説明を増やしても解決しません。
知識・操作・判断を混ぜない
教育する内容は、大きく次の3つに分けられます。
- 知識:院内のルールや用語を知らない
- 操作:ファイルの保存や画面操作が分からない
- 判断:自分で進めてよい範囲と、確認すべき範囲が分からない
たとえば、電話を受けた後の院内連絡で止まっているとします。連絡先を知らないなら知識の問題です。共有ツールへの入力方法が分からないなら操作の問題です。緊急性を自分で判断しようとして迷うなら、確認先と中断条件を決める必要があります。
一つのマニュアルへすべての説明を詰め込むのではなく、どの種類の支援が必要かを先に見分けます。
人が判断する領域を先に残す
院内マニュアルは、スタッフの判断をすべて置き換えるものではありません。患者さまの状態によって対応が変わる場面や、診療上の判断が必要な場面は、誰へ確認するかを明確にします。
「ここから先は責任者へ連絡する」「この条件では作業を止める」と書くことも、手順と同じくらい必要です。
最初の一冊は、繰り返すPC業務から選ぶ
院内全体の仕事を一度に文書化すると、作成にも確認にも時間がかかります。最初は、頻度が高く、説明が繰り返されているPC業務を一つ選びます。
候補を選ぶときは、次の4点を確認します。
- 新人へ何度も同じ説明をしている
- 操作の順番がある程度決まっている
- 担当者によって保存場所や方法が異なる
- 間違えたときの確認先を決められる
院内共有フォルダの使い方、備品発注、公開情報の更新、定型文書の保存などが候補です。患者さまごとに判断が変わる業務や、緊急時の対応を、最初の練習題材として単純化することは避けます。
RYOZENPROでも、AIやツールを先に決めず、現在の業務を洗い出して対象を絞ることを大事にしています。業務を分ける方法は、小規模クリニックの業務効率化で行う5ステップで詳しく紹介しています。
マニュアル作成前にPCの基本操作を確認する
同じ説明を聞いても、操作を始める位置は人によって異なります。医療スタッフを一括りにして、PCが得意、不得意と決めつけることはできません。
私は生成AI講座を、オンラインで2回、対面で3回開催しました。医療関係者が参加した講座ではありませんが、参加者のPC操作への慣れによっては、生成AIの説明へ入る前に、コピー&ペーストやスクリーンショットのショートカットから伝えることがありました。
この経験から、研修する側が「ここまでは知っているはず」と決めないことを大事にしています。高度な機能を説明しても、文章のコピーや画像の保存場所で止まれば、仕事では使えません。
5分の操作確認で説明範囲を決める
長い試験を行う必要はありません。対象業務で使う操作を、本人に一度やってもらいます。
- 指定したファイルを開けるか
- 文章をコピーして貼り付けられるか
- スクリーンショットを撮って保存できるか
- 決められたフォルダへ名前を付けて保存できるか
- 間違えた操作を元へ戻せるか
できない項目を責めるのではなく、マニュアルへ補う範囲を決めるために確認します。慣れている人には説明を短くし、不慣れな人には画面を見ながら進めます。
院内マニュアルは3層に分ける
一つの文書を上から最後まで読まなくても、必要な情報へ移れる構造にします。おすすめするのは、「全体像」「操作」「例外」の3層です。
1層目:一枚で分かる全体像
最初の画面や一枚目には、次の内容だけを置きます。
- 何のための業務か
- 誰が担当するか
- いつ始めるか
- 完了したら誰へ伝えるか
- 最新の更新日
経験のあるスタッフは、ここで確認を終えられます。初めて担当する人は、2層目の操作手順へ進みます。
2層目:一操作ずつ書いた手順
一つの番号には一つの操作を書きます。ボタン名、入力する場所、保存先、ファイル名を具体的にします。
スクリーンショットを使うときは、説明する箇所だけが見えるようにします。患者名、診療内容、職員の個人情報が写っている画像を、そのまま教材に使わないでください。
3層目:例外と相談先
通常どおり進まない場合に、何をしてはいけないか、誰へ連絡するかを書きます。エラーが出たとき、情報が見つからないとき、判断に迷ったときなどです。
相談先が不在の場合の連絡順や、作業を中断する条件も決めます。ここを曖昧にすると、経験の浅い人ほど無理に進めてしまう可能性があります。
作成者の説明なしで一度使ってもらう
マニュアルの完成度は、作成者が読むだけでは分かりません。対象業務に詳しくないスタッフへ渡し、口頭説明を加えずに、どこまで進めるかを確認します。
確認するときは、間違いの数ではなく、止まった場所を記録します。
- どの言葉で迷ったか
- どの画面で次の操作が分からなくなったか
- 保存後の報告先が分かったか
- 自分で判断してよい範囲が分かったか
「どこをクリックするのか分からない」「保存後に何をするか書かれていない」という反応は、マニュアルを直す材料です。同じ場所で複数の人が止まるなら、説明や画像を変えます。
文章を追加するだけでなく、不要な部分を削ることも必要です。短い全体像で足りる人と、詳しい操作説明が必要な人が、それぞれ必要な層を読める形にします。
院内資料を探しやすくする方法として、院内チャットボットを導入する前に決めたいことも紹介しています。チャットボットを使う場合も、参照する資料と更新担当を先に決めます。
電子化するときは患者情報を教材から分ける
院内マニュアルを共有フォルダやクラウドへ置く場合は、保存先を決める前に、含まれる情報を確認します。
2026年8月時点では、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版」が最新版です。2026年6月に公表された同ガイドラインは、個人情報の安全管理に関する教育・訓練を採用時と定期的に実施することや、その実施状況を経営層へ報告することを求めています。
個人情報保護委員会と厚生労働省の医療・介護分野ガイダンスも、2026年4月に一部改正されています。診療録の形に整理されていない情報でも、患者さまを識別できれば個人情報に該当する場合があります。
電子化するマニュアルでは、少なくとも次を確認します。
- 実在する患者さまの氏名や診療情報を例文に使わない
- 画面画像に患者情報や職員の個人情報を残さない
- 閲覧・編集できる人を業務上必要な範囲にする
- 個人のアカウントや私用の保存先へ置かない
- 退職や異動時に権限を見直す
- 情報が漏えいした場合の連絡先を決める
生成AIでマニュアルの文章を整える場合も、患者さまを特定できる情報を一般向けサービスへそのまま入力しません。入力する情報の範囲、利用規約、データの取扱いを確認します。AIが出力した手順は、その業務を管理する人が内容を確認してください。
生成AIの院内ルールを考える際は、クリニックの生成AI導入が失敗する原因と対策も参考にしてください。
更新日はカレンダーより「変化」で決める
院内マニュアルを毎月すべて読み直すのは、少人数のクリニックでは負担になります。一定の間隔だけでなく、見直すきっかけを決めます。
たとえば、次のような変化があったときです。
- 使用するシステムの画面が変わった
- 担当者や承認者が変わった
- 同じ質問が複数回出た
- マニュアルどおりに進められない事例があった
- 保存先や院内ルールを変更した
本文には、作成日、更新日、更新者、承認者を残します。新しい版を公開した後は、受付や事務室に古い紙が残っていないか確認します。
最初から多くのマニュアルをつくる必要はありません。繰り返しているPC業務を一つ選び、「知識・操作・判断」に分けます。3層のマニュアルを作り、作成者の説明なしで使ってもらい、止まった場所を直します。
RYOZENPROでは、生成AI講座やAI顧問、業務改善の支援を行っています。ただし、弊社の講座実績には医療関係者の参加実績がなく、診療や医療安全に関する手順を作成する立場でもありません。
mediでは、クリニックの日常業務や情報共有を整理し、Web、生成AI、院内チャットボットなどをどこで使うか一緒に確認します。院内マニュアルのデジタル化や、スタッフのPCスキルに合わせた進め方を相談したい場合は、mediの無料相談をご利用ください。
お問い合わせフォームには、患者さまを特定できる情報や診療情報を入力しないようお願いいたします。

