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電子カルテを入れ替えるとき、データは一括で移せると思っていても、実際にはコピー&ペーストや患者さまごとのPDF登録が残ることがあります。診療を続けながら数百人、数千人分を処理するとなれば、スタッフの負担は小さくありません。

訪問先の医科クリニックでも、多くの患者情報は新しい電子カルテへ取り込み済みでした。しかし、取り込めなかった一部のデータが手作業として残り、移行全体の負担になっていました。

この記事では、特定の電子カルテやベンダーを評価するのではなく、残った作業をどう分ければ、手作業を減らせる可能性が見えてくるのかを整理します。

電子カルテ移行の負担は「取り込めなかったデータ」に残る

電子カルテのデータ移行は、古いシステムの内容をそのまま新しいシステムへコピーする作業ではありません。旧システムから出力できる形式と、新システムへ取り込める形式が合わなければ、一部の情報は自動で移せません。

たとえば、保険情報、処方、検査結果は一括で取り込めても、患者基本情報、病名、アレルギー、薬剤禁忌などは手入力になる場合があります。過去の診療録を患者さまごとのPDFとして出力できても、新しい電子カルテへ一括登録できなければ、ファイルを一人ずつ紐付ける作業が残ります。

厚生労働省が2026年3月に公表した電子カルテの標準仕様には、データを引き継げる互換性の確保が方針として示され、データ移行の共通レイアウト例も掲載されています。ただし、標準仕様ができたから、現在使っているすべての電子カルテ間で全データをそのまま移せるとは限りません。

移行の負担を考えるときは、「何人分あるか」だけではなく、「何が自動で移り、何が残ったか」を確認する必要があります。

訪問先で見えたのは、単純計算で約100時間の作業だった

私は電子カルテのデータ移行そのものを実施した立場ではありません。訪問先の医科クリニックで作業内容を伺い、どこに時間がかかっているのかを整理しました。

最初のヒアリングでは、登録患者数は約3,000人、現在通院している患者さまは約2,000人でした。移行対象は現在通院中の患者さまで、1人あたり約3分、1日に約100人分を処理しているとのことでした。

2,000人全員に3分かかると仮定すると、単純計算で約100時間です。ただし、これは作業量を把握するための試算であり、100時間すべてを削減できるという意味ではありません。実際の残件数や例外の種類によって必要な時間は変わります。

特に負担になっていたのは、次の3つでした。

  1. xlsm形式のファイルをxlsx形式へ変換する
  2. PDFの内容が画面上のサムネイルで確認できないため、概要欄へ内容を入力する
  3. 過去カルテのPDFを患者さまごとに登録する

当初は、患者さまごとのPDFを一括登録できないか、ファイル名から自動で紐付けられないかをベンダーへ確認する方針を考えました。その後、「多くの患者情報はすでに取り込まれていて、移せなかった部分だけを手作業で処理している」と分かり、見るべき範囲を変えました。

全件移行ではなく、例外処理を整理する

この事例で整理すべきだったのは、2,000人分を一から移す方法ではありません。多くのデータは移行済みであり、残っていたのは新旧システムの仕様差などによって取り込めなかったデータでした。

そこで、確認事項を次の4つへ絞りました。

  • 手作業になっているデータの種類
  • 取り込めない主な理由
  • 現在の残件数
  • 1件あたりの作業時間

取り込めない理由も一つとは限りません。対応していないファイル形式、患者さまとファイルを紐付けられない、PDFの概要入力が必要、ファイル名が統一されていない、一括登録機能がないなど、原因ごとに対処方法が変わります。

「電子カルテ移行」という一つの作業名でまとめると、どこから手を付けるべきか分かりにくくなります。ファイル変換、ファイル名の整理、患者さまとの紐付け、PDF登録、概要入力、移行後の確認に分けると、ベンダーへ確認する作業と、院内で見直せる作業を区別できます。

すべてを同じ方法で移行しない

過去の情報を新しい電子カルテへ残す方法は、すべて同じである必要はありません。診療時にどのように確認する情報なのかを踏まえ、構造化データ、PDF、別システム、旧システム参照に分けて考えます。

今回のヒアリングでは、次のような整理ができました。

データの種類 検討する扱い
保険情報、処方、検査データ 新システムへ一括で取り込める範囲を確認する
患者基本情報、病名、アレルギー、薬剤禁忌 手入力が必要な項目と確認方法を整理する
過去の診療録 患者さまごとのPDFとして参照できる状態を検討する
画像 PACSなど現在の参照先を継続できるか確認する
旧システムに残る情報 閲覧期間、費用、権限、障害時の扱いを確認する

過去カルテをPDFで見られればよいのか、検索できる項目として新システムへ入れる必要があるのかでは、作業量が大きく変わります。一方で、利用頻度が低いという理由だけで移行対象から外してよいとは限りません。

診療上必要な情報、診療録などの保存、旧システムを閲覧できる期間、契約終了後のデータの扱いは、院内だけで決めず、医師、現在と移行先のベンダー、医療情報を扱う専門家へ確認する必要があります。電子カルテの更改前に確認する項目は、電子カルテの導入時期と選び方を整理した記事でも紹介しています。

AIやツールを使えるのは、移行作業の一部

AIが電子カルテへ直接ログインし、患者さまの情報を判断しながら自動で移行する、という話ではありません。新旧システムの仕様や院内の安全管理を無視して、AIだけで移行を進めることはできません。

一方、個人情報を含まないファイル一覧やテストデータを使えば、次のような準備作業を支援できる可能性があります。

  • xlsm形式からxlsx形式への一括変換方法を検討する
  • ファイル名の付け方を統一する
  • ファイルの種類や拡張子を一覧にする
  • 取り込み済みと未取り込みを区分する
  • エラーの原因を分類する
  • ベンダーへ確認する内容をまとめる
  • 残った手作業の優先順位を付ける

PDFの概要文をつくる支援も考えられますが、診療内容を含むPDFを一般向けの外部AIへ入力することは避けます。患者さまの氏名、患者ID、生年月日、診療内容などを扱う場合は、医療機関で承認された環境、契約、保存先、利用範囲、人による確認方法を先に決める必要があります。

今回作成した「電子カルテ移行・現状ヒアリングシート」でも、患者さまを特定できる情報や診療内容は入力しない設計にしました。Googleフォームとスプレッドシートで記録したのは、システム名、件数、作業の種類、所要時間、出力・取込形式など、業務を整理するための情報です。

AIありきではなく、まず現場で残っている作業を分ける。そのうえで、個人情報を扱わずに試せる部分、承認された環境が必要な部分、人が判断すべき部分を分けることが、安全な検討につながります。

ベンダーへの確認と10〜20人分のテストを先に行う

手作業が多いと、すぐに自動化したくなるかもしれません。しかし、同じファイル形式でも、命名規則や患者IDの持ち方、新システムの取込条件によって結果が変わります。

まず、新旧双方のベンダーへ次の点を確認します。

  1. 旧システムから何を、どの形式で一括出力できるか
  2. 新システムへ何を、どの形式で一括登録できるか
  3. ファイル名や患者IDを使って自動で紐付けられるか
  4. PDFの概要欄を一括登録できるか
  5. 変換や登録に失敗した場合、エラー一覧を出せるか
  6. 契約終了後も旧システムを閲覧できるか
  7. データ移行の追加費用と責任分担はどうなっているか

全件へ広げる前に、実際の条件に近い10〜20人分でテストします。ファイル形式を問題なく変換できるか、患者さまとの紐付けを誤らないか、PDFを検索・閲覧できるか、1件に何分かかるか、どの手作業が残るかを記録します。

テストで確認すべきなのは、処理できた件数だけではありません。別の患者さまへ誤って紐付いていないか、必要な情報が欠けていないか、誰が結果を確認したかまで残します。

厚生労働省は、医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版を2026年6月に公表しています。データ移行やAI活用の方法は、院長先生だけで判断せず、院内の責任者、新旧ベンダー、医療情報セキュリティの専門家、必要に応じて所属する医療団体などへ確認してください。

医療DXをツール導入だけで終わらせず、院内で判断できる状態をつくる考え方は、クリニックの医療DXが進まない背景を整理した記事でも紹介しています。

まとめ:自動化の前に、残った作業を分類する

電子カルテのデータ移行では、多くの情報を取り込めた後にも、形式の違いや紐付けの条件によって手作業が残ります。負担を減らす入口は、移行全体をまとめて自動化しようとすることではなく、何が、なぜ、何件残っているかを整理することです。

私は電子カルテの移行作業を代行したわけではありません。今回行ったのは、訪問先で作業を聞き取り、患者さまを特定する情報を扱わずに、効率化できる可能性のある部分を見つけるための整理です。

RYOZENPROでは、電子カルテ自体の選定やデータ移行を代行するのではなく、現場の作業を分け、ベンダーへ確認する項目や、AI・ツールで支援できる範囲を整理します。移行後に手作業が残り、どこから見直せばよいか分からない場合は、mediの無料相談または medi@ryozenpro.com へご相談ください。

お問い合わせフォームやメールには、患者さまを特定できる氏名、患者ID、生年月日、症状、診療情報などを記載しないようお願いします。

参考資料